SS

のーたいとるなSS(2020-01-03版)

これはどうしようもないプロデューサーと、あるアイドルの、ひと夏の合宿という名の青春を描いただけの物語である。 ――その青春は、たった一歩だった。 ジリジリと照りつける太陽と煩く喚くセミを背に、私は事務所へと歩いていた。 私が担当するアイドルはと…

生きているというのは死に続けるということだ

SS

人は生きているだけで死んでいく。 死んでしまったら取り返しがつかないなんていうけど、過ぎていく時間の取り返しがつく人だってこの世には存在しない。 あのときにもう一度戻りたいなんて過去を思い出して泣けるなら、きっと息絶えたあとも泣いているんだ…

言葉から始まる物語 第一回『夏の終わりに』

夏の終わりにふと、たくさんの思い出が脳裏をかすめた。夜明けの空に、心を揺らされたからかもしれない。 花火を見たこと、人間関係を憂いたり、好きな人のことを心から想ったこと、ある日は夜明けの風を感じてしまって、でもその空気が新鮮で、なんだかいい…

夜風の言葉

晩夏の夜風、心地よく吹く。その匂いが伝えてきたのは、もう戻れない夏の記憶と、たくさんの不安だった。無邪気に過ごしていたあの日々は、夢のように消えてしまうみたいで、あまりにも儚かった。日々は失ってから気がついて、もうどれだけ願っても戻っては…

眠らない空

なぜ人は眠るのだろう。ああ――また空が明るくなってきた。さあ、夢の続きを歩こう。

夏祭りの日に

SS

それはある夏の日のことだった。夏と言っても七月の中頃で、これから来たる灼熱のことを憂いている余裕も多少はある。そんな日の夕暮れだ。公園に櫓が建てられ、ちょうちんが光る。町中には盆踊りの音楽が流れる。なぜだかそれはなんとも寂しく、反響の掛か…

夏の暑さの中で

SS

茹だるような暑さの中、蝉の鳴き声が暮らしを支配している。せめて音だけでも涼しくとつけた風鈴は、何の言うことも聞くことなく静寂を極めていた。暑い。夏を象徴するかのような積乱雲も、それは『あの夏の日』という儚くて手の届かないようなものであるよ…