言葉から始まる物語 第一回『夏の終わりに』

 夏の終わりにふと、たくさんの思い出が脳裏をかすめた。夜明けの空に、心を揺らされたからかもしれない。
 花火を見たこと、人間関係を憂いたり、好きな人のことを心から想ったこと、ある日は夜明けの風を感じてしまって、でもその空気が新鮮で、なんだかいいなと思ってしまったこと。
 思い出ってなんだろう。時が過ぎていくから、思い出になっていくのかもしれない。思い出すことで、思い出になるのかもしれない。正解はきっとわからない。
 それでも確かに言えることが一つだけある。思い出というのは、少なからず、思い出されるものだ。
 多分、きっと――まるで祈りのようであるけど、その時を覚えていたいと願ったから、思い出せるのだ。きっと、こうやって文章を書いて、必死に想いを残そうとしたことも思い出せる。
 明日はどんな思い出になるんだろう。忘れてしまう一日にはならないでほしいな。私はそう願って、明け方の布団に潜り込んだ。


あとがき

 “思い出”って特別ですよね。でも、その日々って普通なんですよね。
 実は普通の日々ってすごく特別で、そのときにしか送れなくて、過ぎ去ってしまうとどこかに消えてしまって、どれだけ願っても戻ってこないものです。
 あの景色、写真に残しておけばよかったなと思うこともたくさんあります。
 一日を大切に、なんて多分必要ないんです。普通の日々を、そのときの自分が幸せだな、楽しいなって思えるように生きているのが、最高の思い出になったりしますから。
 追記:夏っぽい言葉から生まれてきた"思い出"の話。案外面白い企画だなと思ったので、よさそうな言葉が浮かんだらまた書いてみます。


Memo

思い出が残るというのはどういうこと?
残す、残そうとして残す? そうではない、過ぎていくから、そうなっていくのだ。
追記:一体思い出が残るってなんだろうね。案外人間って、時の記憶が消えていかないだけなのかもね。それでも特に大事、うーん、大事ではないんだけど、特別だとか、消したくないだとか、そんな意識の中にある記憶は守られるのかもしれない。
"まるで祈りのようであるけど"と書いたけれど、本当にそうかもしれない。